その国に居たのは 一人の神様だった。


@.序章
「−ごめんね」
 その声に反応して 桃ははたと顔を上げた。
 母は正座をして ぎゅっと強く強く太股のあたりの着物を握りしめている。
「…ごめ んね 桃ッ…!あなたをっ…う んで ごめ…んねっ…!」

 −そんな悲しそうな顔しないで 母様。

 桃は苦笑して そっと母の手をとった。

「ううん。そんな事無いよ。産んでくれて 有難う。…あたしを産んでくれたから 村のみんなはまた 150年生きられる。」
「…ごめ…ん ねっ…!」

 この国では 150年に一度 国の平和の為に「贄」を捧げる。

 贄にされる一族は決まっている。『雛森』の名の元に産まれた女性だ。
 雛森一族…と呼んでいいものか少し迷うが…この家系には 一切男性が産まれない。今の時代では珍しい 婿養子という形になるのだ。
 「贄」は神様の指名型だ。けれども 何故か神様は必ず雛森を指名する。
 そうして不思議な事に 贄に指名された少女は泣きもせずに笑って旅立ってゆく。

 −彼女もその一人だ。

 強い家系なのだろうか とも思うが 以外にその親や祖母はやんわりとしていたり 泣き上戸だったり 様々だ。
 最期の別れのキスを額に受けて 微笑んで桃は立ち上がった。

「行ってきます。」



 迎えの銀狼が 別れの合図だ。









A.神様のお食事
「不味いんだよ 人の其れは。」

 こちらを全く向かずに 「神様」は指に小鳥を留まらした。

「不純物が混ざりすぎている。憎しみだとか 裏切りだとか 欲望だとか。それらが純粋ならばまだ良いんだが それが‘飯’と混じるから不味いんだ。それに比べて 此奴等の忠誠心は‘飯’にはならないが 人間の其れよりかは十分美味い。」

 何の噺をしているのかさっぱり解らず 雛森は首を傾げた。
 銀狼が「神様」にすり寄って 耳の後ろを掻いてもらい嬉しそうにしている。
 銀狼のたてがみのように煌めいている「神様」の髪は 成る程綺麗だった。

「それでも 親父が死んで20年間生きれば‘飯’が必要になる。…ったく…。」

 そこまで言って やっと絢爛に装飾された椅子に座っていた「神様」は顔を上げた。

「少しは美味いもの 喰わしてくれよ」

 真っ直ぐ

 真っ直ぐ

 碧色の目と 藍色の目が 其処で出会った。

「あたしを 食べるんですか?」

 少し上擦った 情け無い声で 桃はそれだけを必死に聞いた。
 けれども 予想外に返ってきた声は素っ頓狂で。


「はぁっ!?何言ってンだお前 肉なんて下界の野郎共と同じモン喰うわけねぇだろ?」


 へ?と返した桃の声もまた 素っ頓狂に調子外れだった。








B.メニューは如何?
 ずっと刻まれっぱなしだった眉間の皺が一段と深くなるのをみて 雛森は不用意な台詞に気分を害してしまったのだろうか と 一瞬不安になったが 鳥と戯れている「神様」を見ている分には どうやら眉間の皺は年がら年中あるらしい。

「大体 よく食えるよな 肉なんて。命を丸々奪って喰うんだ 贅沢だよ。同じイキモノである事には変わりねぇのに。結局共食いだって事にすら気付いてすらいない。」

 その台詞に雛森は流石に顔を顰めた。
 いくらなんでも「神様」でも 言い過ぎではなかろうか。結局そうしなければ生きていけないのだから。

「…嗚呼 悪かったよ。まぁそれもそうなんだけどな。いいさ 今日からお前は食事なんて必要無くなって 俺の飯になるんだから」

 誰に呼びかけているのかわからずに きょとんとしていたが 訝しげに「神様」がこちらを向いたのでそれが自分に対して吐かれた台詞だった事を理解した。
 −え?
 そこでやっと違和感に気付いた。

「反応遅いな お前。」

 口に出してなどいない事に対する返事。

「モモ」

 いや 考えてみれば当たり前だった。彼は「神様」なのだから。何よりも納得される台詞だ。

「…聞いてないな モモ」

 其処でやっと モモ=桃という事が繋がって 雛森は慌てて顔をあげた。ずっと名前を呼ばれていたのに無視をしていたのだ。

「は はい 何ですかっ!」
「…いや。俺 いい加減飯喰いたいンだけど」
「え…あ…」

 そうだった その話をしていたのだった と 雛森は二三度瞬きをした。

「あの あたしは何をすれば…」
「あん?大丈夫だ 作業自体は単純だ」

 「神様」は頬杖をついて 初めて雛森に向かって笑みを浮かべた。

「始めは対して栄養はとれないだろうがな。俺の食事生活はお前にかかってるんだ 頼むぜ?」
「え あ あの…」


「其処を動くな」


 何よりも力のある者の威厳が溢れた声で 「神様」はびしりと命令をした。
 雛森は反射的に身体を止めて そのままの姿で硬直をした。カツン カツン と 「神様」は雛森の方へ近づいてゆき 片膝をついている雛森の顎をぐいと上げさせた。

「俺を想え。」

 は?と言う間もなく その唇は塞がれた。











::後書::

全くもって何も考えずに始めてしまった 日記連載作品です。(笑)
日記で書いているので どうも話が変わると文体も変わってしまいますね;

少しでもお楽しみいただければ幸いです。